病院の事業継続計画(BCP)におけるトイレ問題
病院BCPでは災害によるインフラの遮断を想定する必要がある
病院で医療を継続していく上で、基本インフラである「水・電気・ガス・医療用ガス」は欠かすことができません。しかし、災害時にはこれらが使用不能になることを考慮して病院BCPは作成しなければなりません。
病院BCPの作成では地震や豪雨によって一時的な「停電」「断水」が生じる事を想定する必要があります。
トレイに必要なのは「水」と「電気」
病院の規模にもよりますが病院にはたくさんの「トイレ」があります。人が生きてく上では排泄が必ず必要で、我慢でどうにかなるものではないので、停電・断水時のトイレ問題は必ず病院の事業継続計画(BCP)に取り入れる必要があります。
また医療の観点から、病院のトイレ問題では感染症対策も考慮する必要があります。
トイレが必要とするリソース
「水」について
震災によって市水の断水が起きても病院施設ではすぐに水が使えなくなるわけではありません。
病院を含め大きい施設では市水を屋上のタンクに一度貯めている形となっているので、施設の配管にダメージが無ければしばらくは水を使うことができます。
1回で使用する水量
しかし、トイレの洗浄には多くの水を使用します。トイレの一回分の水量については、最近の便器ではデザインの改良によって約6L前後となっています。
1990年代頃までは、13Lが主流でしたが、最近の大便器は大6L 小5L以下になっています。
また、各メーカーからは更に節水された製品も発売されています。 詳しくは各メーカーのカタログ、パンフレットなどをご確認ください。
最新の便器で一回に流す水の量は何Lくらいですか?-トイレQ&A 大便器|トイレナビ 一般社団法人 日本レストルーム工業会
しかし、病院トイレの利用者数を考えると使用する水量は大量です。病院では他の事にも水を使いますので、市水の断水が起きればトイレの水の使用制限を考えなければなりません。
BCP作成において調査しておくべき項目:
- 屋上貯水タンクの容量
- 一日のトイレの使用回数*1
- トイレ一回分の水の使用量
これらの情報が分かれば、どのぐらい市水の断水後、使用制限しない場合いつの時点でタンクが空になるのかが計算できます。
この計算結果に基づき、トイレの水の使用制限をどの時点で行うべきか検討することができます。
水を流せない場合には簡易トイレによる代替が必要
水が流せなくなると、感染症対策の視点からもトイレの使用を制限するしかありません。その場合、簡易トイレを使用するなどの水を使わないトイレ対策を行う必要が生じます。
「電気」について
トイレには電気も必要です。トイレが使用している電気は、「照明」「換気」「ナースコール」「便座のウォシュレット」などです。
規模の大きい病院では非常用電源の確保が義務となっているので、発電所からの外部電源が遮断されても、病院の電気がまったく使えなくなるということは基本的に無いです。
しかし、非常用電源が供給できる電気量は限られており、その非常用電気がトイレに供給されているか確認する必要があります。
照明
病院のトイレは構造上奥まった場所にあり、自然採光が考慮されていないところも多く24時間電気による照明が必須な場合があります。その様な場所のトイレでは停電の際には暗闇となり転倒の危険が非常に高まります。
非常用電源による照明がトイレにも設置されていれば大丈夫ですが、設置されていない場合は持ち運びの照明器具を使うなどの対策が必要となります。
BCP作成において調査しておくべき項目:
- 停電時に非常照明が点くか
- 持ち運びできる照明の備蓄状況
トイレが流せるか
メーカーや製品にもよりますが、設置されている便座の種類によってはトイレを流すためには電気が必要で、停電の際にはトイレが流せないということが発生します。
病院のトイレの便座に非常用電源が配線されているということはあまり無いので手動で流せるようにする対策が必要です。
BCP作成において調査しておくべき項目:
- 便座の製品名・メーカー名
- 停電時に水が流せるかどうか、流す方法
簡易トイレの備蓄
水の使用制限をする場合、簡易トイレを使用するしかありません。病院の場合、便座については既に十分あるので、簡易トイレには既存の便座を使うタイプを使用できます。

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また、簡易トイレの備蓄と合わせて、使用後の排泄物入り汚物袋の一時保管場所・方法についても検討する必要があります。ここらへんでは感染症対策の視点で考えることも重要となります。
BCP作成において調査しておくべき項目:
- 簡易トイレの備蓄状況
- 使用済み汚物袋の一時保管場所・保管方法
まとめ
病院BCPにおけるトイレをどう確保するか問題について解説しました。改めてまとめると以下になります。
調査しておくべき項目:
- 屋上貯水タンクの容量
- 一日のトイレの使用回数
- トイレ一回分の水の使用量
- 停電時に非常照明が点くか
- 持ち運びできる照明の備蓄状況
- 便座の製品名・メーカー名
- 停電時に水が流せるかどうか、流す方法
- 簡易トイレの備蓄状況
検討するべき項目:
- トイレ使用制限をどの時点で行うかの判断基準
- 使用制限の実施方法・手順
- 持ち運び照明の備蓄が十分か
- 簡易トイレの備蓄が十分か
- 使用済み汚物袋の一時保管場所・保管方法
病院BCPにおいてトイレ問題は無視できない課題です。しかし一方で、事前に準備し検討さえしておけば非常に効果を発揮すると考えられます。ですのでぜひ検討しておきたいところです。
*1: 使用回数については想定使用人数が一日x回使う場合と考えればよいです。